父の横顔

 

 

山口県阿武郡奈古町にある小さな港町で、私の父は漁業を営んでいる。

幼少期に両親が離婚し、離れて暮らしていた父は千葉県でサラリーマンをしていたが、自分の夢を叶えるために山口県へ移住をしもうすぐ5年になる。父は現在、息子とふたりで生活をしている。それは私の腹違いの弟だった。

数年ぶりに会った父は声が枯れ、船上での仕事の為か肌も日に焼けて心なしか顔つきが変わっているように思えた。

しかし、横顔から覗くその目は私の知る父そのものだった。

 

阿武の海には小さな島が浮かんでいる。それぞれが男鹿島、女鹿島と呼ばれる夫婦島で、町の守神のような存在だった。

漁師は海に向かう時、船からその島の方角に手を合わせる。それは、大漁祈願と無事に帰ってこられるようにという祈りだ。

 

ぽつり、ぽつりと真っ暗な闇の中に無数の光の塊が見える。それはまるで宇宙に浮かぶ無数の星々のようで、それならばこの船は宇宙を孤独に漂う宇宙船だろう、などと考えていた。光の正体はこの船と同じく、集魚灯と呼ばれる電球をぶら下げたイカ漁の船だった。イカは夜になると、月や星の明かりの届く薄暗い場所を求めて海底から登ってくる。父は罠を仕掛けそれ等を淡々と釣り上げ、私はその姿を撮影する。エンジンを切った船にはたゆたう波の音とそれぞれの作業音だけが響いている。その静寂が心地良くて、なんだか父と繋がれたような気がした。

 

大学4年間私は山口県を訪れては父の姿を撮り続けてきた。今思えばその行為は私と父の会話だったのかもしれない。

私が父に感じていた幼少期の寂しさと同時に、父も私に対して罪悪感があったのだろう。お互いの間にあったわだかまりは写真という行為の前では自然と溶けていった。

弟は中学を卒業すると同時に父の元を離れるらしい。

今度こそ父はひとりぼっちになるのだろう。この阿武の海に骨をうずめるつもりだという。

 

 

この町でこれからも父の生活は続いてゆく。