今、過去を見出すこと

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは

現在を形成する要素として過去は何ら関係のないものだと語っています。

過去というものが今存在しない以上、現在はそれ自体で成り立つことができ、

その現在において「過去という名の知識」があり、それを今認識したに過ぎない、と。

つまり過去は認識された時に初めて人の心の中に形成されるものであり、

認識しない限り存在しない曖昧なものなのかもしれません。

 

この作品では複数回の露光によって、いくつかの時間軸で捉えた花を一枚に収めました。

揺らす、異なる向きから見る、光学的に異なる条件で撮影するなど、

時間の流れの中で写真として捉えられる様々な姿を、

各露光時間ごとに異なる色の光を当てる事で区別して撮影することで、

様々な花の姿を写し出しています。

また露光にはペンライトを手持ちで使用し、

私自身の動きも光の揺らぎとして写し出されています。

一枚の写真の中では複数の時間軸は重なり、混じり合って、

まるで圧縮されているかのようです。

しかしこの写真を見た人が異なる時間軸の一つ一つを見つけ、

異なる花の姿を区別した時、それぞれが異なる過去として独立して立ち現れます。

 

写真に写し出された過去とはどの時間のことを言うのでしょう。

シャッターが降りた瞬間なのか、それとも写真に写る全ての時間なのか。

それは写真を鑑賞する人の認識に委ねられています。