境界
71A027-3 杉森圭一郎


『境界』

《Border》
 

 この世の向かい側の世界は存在するのだろうか。文明が発展した現代でも、死は生きている以上、逃れることのできない永遠の問題だ。しかし、日々の雑事をこなすことに精一杯な私達はその時が訪れるのは遥か先の出来事だと無意識に考えている。明日を生きている保証は無いにも関わらず、各々が日々をいつも通りの過ごし方をして送っている。

 

 この世の向かい側について書かれた物は溢れるほど存在する。死人を生前犯した罪で鬼が処刑する地獄。花畑が広がり、そこでは先立った親族達が暖かく迎え入れてくれる天国。又は何も存在しない深淵の世界。多くはこの世とかけ離れた世界として描かれている。

 

 もし、向かい側の世界が既にこの世に存在しているとしたらどうだろうか。私達は自分と身の回りのことにしか目を向けないために、その存在の近さに気づいていないだけでは無かろうか。


 目に見える明瞭な存在では無いが、確かにこの世に存在している。それは特別な場所ではなく、私達が生活する中で見慣れた光景や、文明社会の象徴の大都市の足元にも潜んでいる。

 

 目に見えない存在を自ら探した時に、初めて向かい側の世界を感じ取るという形で確認することができるのでは無いか。