留学生として日本に来て以来、日本とのつながりを探り続け、私は漢字の形と意味が一体となった視覚的特質に強く惹かれました。同時に、漢字と同じく中国由来の筆表現である水墨山水にも深い興味を抱きました。
山水画は多視点の構成や余白を通して、鑑賞者の想像力を喚起する表現です。写真にもこの多視点を取り入れ、一枚の画像に異なる瞬間や視点を重ねることで、単一視点では見えない複層的な心象を具現化したいと考えました。写真は現実を写す道具とされがちですが、私の中では撮影者の感情や思想を映し出す媒介でもあります。
本作品《夢幻泡影》では、モノクロネガフィルムをリバーサル現像し、ネガが象徴する内面世界をポジへと反転させます。これは想像上のイメージを現実へ引き出す試みであり、重なり合ったフィルムが山水画の遠近や余白を再現します。その重層構造は写実と幻想、記録と創造の境界を曖昧にし、鑑賞者に不確かな空間体験を提示します。この手法により、写真に金剛般若経の「如夢幻泡影…」の思想を重ね、複数の瞬間が交わり、存在しない景色を現実に持ち込む試みです。
山水画の精神性と禅の無常観を写真に融合することで、現実と幻想が溶け合う新たな視覚体験を探求します。フィルムの反転像は、想像上の風景を具現しながら余白を活かし、複数の視点を想起させる風景を生みます。本作品を介し、「写真」のもう一つの可能性について提案いたします。