写真は、記憶を辿る旅であり、
たしかにあったその光景を、感情を、
後世にまで遺しえる記録だと思う。
みなもと
鬼原 愛佳
父の実家、母の実家。
そして、生まれたときから身近な存在である江戸川。
古くより受け継がれるもの、私を構成してきたもの。
過去とも、今とも、向き合いたい。
今までも、これからも、ずっと大切にして、
そして、まだ見ぬ誰かへと伝えていきたい。
技法:綿布(シーチング)にサイアノタイプ
私の母は、かつて服作りの仕事をしていました。
服の“もと”となる布、私の“もと”となってきた被写体。
この作品では、シーチングという洋服の仮縫いに使われる布を用いて、
支持体と表現をリンクさせました。
また、昔から愛されてきた古典技法。
一枚いちまい手作りであるため、ひとつとして同じものはありません。
これを用いることで、シャッターを切ったその一瞬、
手間をかけて作るその過程をも大切にしたい思いがありました。
サイアノタイプとは、1842年に
ジョン・ハーシェルによって発明された印画技法です。
感光液を塗った支持体とネガを密着させ、紫外線で焼き付けます。
青色の濃淡で表現される、光の明暗。
サイアノタイプの持つ、美しいブルーに魅了させられました。
かたちのあるものも、ないものも、何時までも続くとは限りません。
だからこそ、私は遺すことが大切であると感じます。
今、呼吸していること、生きていること。
なぜ、そのようなことができているのでしょうか。
それは、生まれてからはもちろん、
その前からも脈々と受け継がれてきたものがあるからです。
これは当たり前のようでいて、奇跡だと思います。
当たり前なことは、なんてことのないものだからこそ、あまり目を向けられません。
どうか、あなたの“なんてことのない”ものにも目を向けてもらえたら。
日常を、日々を、これからも愛していきたい。