仕合せの歩みから

Steps to Fulfillment

 

 

安藤 凌


多様化し複雑になっていく社会の様子は、デジタルネイティブに生まれた自分でも顕著に感じ取れるほど目まぐるしく進んでいき、便利な時代に生きる私たちだが、自然災害、コロナ禍、戦争、 そして人権問題といった様々な不安要素を絶えず抱え、未来への希望を持てずにいる。

 

SNSで他者への不寛容な意見が飛び交い、リスクが付き纏い、情報化社会ではセキュリティの意識が高まるなど、ますます窮屈な世界がみえてくる。どのように私たちは「豊か」や「幸せ」を感じとることができるようになるのだろうか。

 

ひとつとして「シンプリスト」に着目した。彼らは、暮らしの中で簡素化、単純化、ダウンサイジングといったキーワードからアプローチを試み、より自分らしく生きていこうとしている。ますます複雑化する生活に対して、よりシンプルに生きる選択は今後の時代に大切になってくるはずだ。

 

豊かに生きるとは?幸せな暮らし方とは?フランスの哲学者アランは「人間はどのような社会でも、誰でも幸せになれる」「幸福になることは義務」と述べた。

 

本作品では4人の協力者を通して「豊か」や「幸せ」を見いだす彼ら「シンプリスト」としての意識とその活動に迫る。

ため息をついたり、苛立ったり、気づかない間に動悸がしていたり。自分が日常を生きることに対しての不安や疑問をふと抱いたのは、ストレスを感じていると身体が教えてくれた時だった。人混みが当たり前で、時間ばかり気にして慌ただしく過ぎるのに、どこか空虚でたまらなくなる。そういった時間と一緒に流れ、うやむやになっていた部分に興味を持ったのが、制作を始めるきっかけであった。

 

4人の協力者である「シンプリスト」は取捨選択を繰り返しながら、自分の好きな時間と空 間を意識し、外と内のそれぞれの中でバランスよく暮らしている姿勢がある。一息つくことを意識する。地元の野菜を使った食事。大自然の中に身を置く。いずれも「心地よさ」を追求し、人生の価値である「豊かさ」へと結びつけている事を撮影しながら実感した。 

 

そして、彼らはこの先どうなるか予測不可能な未来に対して、今を楽しんでいる。何が正解でゴールなのか分からない現在では、自分自身にとって「いいな」と思う事をやってみる過程が大事なのかもしれない。正直に生きてみると、自ずと周りの人や場所といった環境が「幸せだ」と感じられるものになっていく。


撮影にご協力いただいた上田海斗さん、山田高暉さん、長田誠さんとご友人の方々、岩尾美咲さんに心よりお礼申し上げます。