産土に謡う
地域とは、地理的なものだけではなく、⼈と⼈とのつながり合う場のことを指す。
そして、それは時間と空間の中に⽣成されるものである。
その地に⽣きるということの本質は、同じ⾵土を分かち合う⼈と⼈とが、互いに助け合う体験に参加することにある。
⼈々は、天候における不作を案じつつ、共に働く仲間を労い、豊作の喜びを分かち合い、神仏に感謝と祈りを捧げ、
土地と⼦孫の繁栄を願ってきた。
ともに舞い、踊り、謡う、「祭」は、農事の労働歌であり、癒しとなり、そして祈りとなる。
それはその地域に根差した創造性として、共同体としての⼀体感を育んで来た。
⼈々はこのような体験によって、「⾃分たちがここに育んできたつながりが既にあった」ということを再認識する。
「ふるさと」と聞いて多くの⼈が思い浮かべる、美しい⾃然豊かな⾵景や⽂化は、⼈の⼿があることによって初めて維持することができる。
そしてその⼿は、「⼈と⼈とのつながり」と「その活動への参加」によって⽀えられている。
本作品の⼤貫地区は、私の「ふるさと」である。
私も祭りの舞台に⽴つ⼀⼈であった。
今「ふるさと」は、景⾊と⽂化の⼀部を喪失しつつある。
私は来年社会⼈となり、東京で働く。
多くの若者は、働く場所をもとめて地域経済の中⼼都市や東京圏へ流出している。
持続可能な地⽅の地域づくりは、いまだ整う状況ではない。
私が受け継いだ「ふるさと」の⽂化や伝統はどこへ⾏くのだろうか。
若者は、いったいどのようにして「ふるさと」を残していくことができるのだろうか。